児童間性暴力とは?
私たちは主に児童養護施設など、児童が生活を共にしている入所型の児童福祉施設における児童同士の性暴力(児童間性暴力)をテーマに研究・実践活動を行っています。「児童間性暴力」を定義することは、かなり困難ですが、性暴研では概ね、以下のように考えています。
【 児童間性暴力の定義 】
性交、肛門性交、口腔性交、性器を含む身体の愛撫、性器を舐める、キスの強要等の直接的な行為や自慰行為の強要、裸になることの強要、ポルノ雑誌や自らの行為を見せる、不快な思いをさせる性的な発言、ベッドに侵入し一緒に寝ること等の間接的な行為も含め、性的行為が力の強い者から弱い者への望まない形で行われるものを性暴力として捉える。
望まない形とは、完全な同意がある行為以外であり、直接的な暴力や脅迫を用いないが、何らかの圧力によって同意をした場合は望まない形での性的な行為と考える。
また、同等の力関係に基づく合意以外の場合や一方に十分な判断能力が備わっていない場合などは、仮に合意があったとしても性暴力とする。
児童間性暴力の要因は?
児童間性暴力といっても、成人の「レイプ」に近い行為(これは極めてまれ)から、幼い児童が興味から行う「探索行動」まで多様なものがあります。(性暴研では現在、児童間性暴力を分類する取り組みをしています)
これまで、児童間性暴力が発生した際、ややもすれば「加害児の特性」の問題として捉えられることが少なくありませんでした。しかし、それだけではなく、児童間性暴力を施設システムの課題として捉えることも必要だと考えています。
性暴力の連鎖を断ち切るために
①特定の職員のみで対応するのではなく、職員全体の戦略的アプローチを確立すること
②施設のみならず児童相談所などの関係機関が連携協働して取り組むこと
③「予防」「早期発見」「(危機)対応」の視点から包括的対応を行うこと
以上のような視点が必要であると考えています。
ずっと以前からから続いていた問題である
「荒廃のカルテ」(駒草出版株式会社ダンク:追跡ルポルタージュシリーズ「少年たちの未来」 1ISBN:4905447011/9784905447016発行年月:2012年05月)の中で語られていたことです。
女子大生の強姦殺人で無期懲役となった少年のルポタージュ。少年は乳児院から施設で育ち、養護施設に入所中に職員からの体罰、年長児かの壮絶な身体的、性的暴力が加えられていました。公判のなかでそのような事実が明らかになり、少年の事件のひとつの要因とされました
これまで適切な対応がなされていなかった
これまで児童養護施設等では、児童間性暴力が発生した際、どのように対処したら良いのかがわからず、その対応を児童相談所に任せきりとなり、中には「実際に何が起こったのか」が分からないまま、その問題を加害児童の特性(個人病理)ととらえ、加害児童を別の施設に移す(措置変更)といった表面的解決にとどまってように思われます。
参考:遠藤洋二(2015)「児童養護施設から児童自立支援施設へ措置変更となった児童に関する実態調査」、非行問題第221号P.P.117-133
遠藤洋二(2016) 「児童養護施設から児童自立支援施設へ措置変更された児童の背景にあるもの」、児童養護実践研究第5号 P.P.12-26
その結果どうなったか
発生した性暴力について、個人・環境のアセスメントを十分にえず、具体的な対応もなされないままでいることで、
・措置変更された児童が、措置変更先で同様の問題を起こす
・被害児童が成長するなかで加害行為をに及ぶ(性暴力の連鎖)
・加害-被害の広がり(同じ生活集団に暮らす児童の殆どが性暴力に関わっていた例も)
・施設の「文化」として根付く(何十年も続く隠された慣習:Hidden Ajenda)
といった弊害につながることも稀ではありません。
児童養護施設など入所型児童福祉施設特有の問題ではない
児童間性暴力を施設特有の問題ととらえることは間違っていると思います。
児童間性暴力は、こどもの集団ではしばしば起こります。学校:特にクラブ活動・ 寮・青少年団体・児童館etc. で発生した事例も少なからずありました。また、非行集団の中では、リンチの手段として性的類似行為が使われることもあります。
しかしながら、複数の児童が生活を共にし、性加害、被害のハイリスク児童が数多く入所している児童養護施設ではより踏み込んだ対応が望まれます。